Tech と Culture

テクノロジーとカルチャー

オープンソースワールド

オープンソースワールド」という本を読みました。

内容はエリック・S・レイモンドのオープンソース3部作を中心として、リーナスやストールマンのインタビュー等を追加したものです。

エリック・S・レイモンドの3部作は以下のページで全文を読むことができます。
YAMAGATA HIROO PAGE

伽藍とバザール」は、Linuxのように世界中のあちこちで分散的、自主的に参加する人たちによるシステムの開発(バザール方式)と、Linux以前のしっかりと組織をつくり組み立てていくシステムの開発(伽藍方式)についての話です。多くの人が伽藍方式でなければ複雑なシステムはまともに動作しないと考えていましたが、リーナスはバザール方式の優秀さを証明してしまいました。バザール開発のためのツールGitも開発しています。
結局の所、システムの問題は「問題を発見すること」が一番難しく、「問題の発見」は問題部分を開発した人とは別の人が発見する。そのことを考えるとより大勢の人間が参加するスタイルの方が優れているという内容です。
文中では簡単に「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない」と表現されています。
これは結構目からうろこの話です。特にハードウェアはひとつのミスがすべてを台無しにするので、伽藍方式に対するこだわりが大きい人が多い(私もそうでした)のですが、FPGAが今後どんどん発展していけば少なくともRTLのレベルではバザール開発の可能性が出てくると思います。

「ノウアスフィアの開墾」は、オープンソース界で見られるハッカー文化について説明したものです。
ソフトウェアは、食べ物や宝石のように誰かが手に入れたら他の人が手に入れることができないものではなく、いくらでも無料で複製することが可能です。そのことによって「贈与経済」というルールが組み立てられていることを説明しています。
もっともシンプルな社会システムは軍事力等を用いた「上位下達システム」です。現代の社会システムは自由経済原理に従った「交換経済」です。
それらの世界と異なる「贈与経済」について説明されています。
最近では、FacebookのCEOも贈与経済というビジョンを持っているという話をしています。
オープンソースに限らず、インターネットが発達したことによる現代のパラダイムシフトについて示唆を与える内容でした。

「魔法のおなべ」は、その贈与経済の中にいるオープンソース開発者がどうやって生活していくか、オープンソースと通常の交換経済のビジネス社会との関係はどうなるのかについて書かれたものです。
ここは、いまだにはっきりしていない部分だと思います。贈与経済の中にいるオープンソース開発者でも実際に食料を購入して生きていかねばならないので、それをどのような方法で成り立たせるかいまだに試行錯誤が行われていると思います。

この三部作はオープンソース活動のみに限らずに、現代社会で起こっている変化を見る視点を与えてくれるような示唆に富んだ文でした。

ネットの発達で世界中の人と意思疎通が可能になり透明性が高まる現在、集合的知性を引き出す手法が求められていると感じました。