Tech と Culture

テクノロジーとカルチャー

米著作権庁の発表

非常に大きなニュースが飛び込んできました。
米著作権庁 合法利用の範囲を大幅拡大

日本では、iPhoneのjailbreakがグレーゾーンから合法になったというニュアンスで報じられていますが、そんなに単純な話ではありません。数年後のハイテク業界の勢力図に大きく影響を与える一大ニュースだと思います。

ハイテク業界は、コンピュータ業界と家電業界の融合から始まった大きな過渡期にあります。今や融合分野はその二業界にとどまらず、音楽業界、映画業界、通信業界、出版業界、放送業界までが渾然一体となって覇権を争っています。その中で、現在の勝者は、Apple, google だと言うのは誰もが思っていることでしょう。

Appleは、iPhone(iTunes)によって、音楽レーベルの存在意義を小さくしました。iTunesでの配信は、ユーザにとっては非常に便利で、皆飛びつきました。その結果、Appleの力は音楽業界でも非常に大きなものとなり、大きな利益を生み出しています。ある意味、これまで音楽レーベルが受け取っていた取り分を減らし、Appleが受け取るようになったと見ることもできます。
次に iPad を用いて出版業界に大きな力を持とうとしていることは明白です。こちらは勝者となるか分かりませんが、現在出版社が得ている取り分をAppleが受け取るようになる可能性はあります。
どちらの場合もプラットフォームを独占することにより大きな収益を目指していることは明白です。

googleは収入源が広告であることと、多くのものを無料で提供していることから、そのビジネスモデルは一見分かりにくいですが、このエントリの後半に書いたように、他社の取り分を減らして自社の収益を上げるものです。
Appleほど、プラットフォームを作って独占しようとしているようには見えませんが、Androidの浸透はハードウェアベンダにとっては脅威ですし、Youtubeを持っているということはいずれ放送業界にとって脅威となってくるでしょう。


このような状況の中で、Appleは自社のビジネスモデルを脅かすアプリ(google voice等)を認可しなかったり、他社のモバイル機器がiTunesとの接続可能な状態で売り出されるとバージョンアップして接続できないようにしてビジネスモデルの強化に努めてきました。
特に最近はiPad,iPhoneからのFLASHの締め出しが大きな物議をかもしました。FLASHを搭載しないというだけでなく、FLASHを用いて開発した後にバリナリーコードに変換したものも認めないという契約でしばろうとしたことが、開発者の世界では大きな話題となりました。

このビジネススタイルには批判も多く、議論の的となっています。
AppleはPCを「ギークが使うコンピュータ」から「誰でも使える家電製品」にすることをDNAとする会社であり、その完成度を高めるためにすべてを自社でコントロールする方法をとりました。ジョブスは「すべて、ユーザが判断する。ユーザに不都合があれば製品は売れないだろう。iPadは、かなり売れているようだ」と発言しています。
しかし、これまでは、問題のある技術であればユーザがそのプラットフォームでは使用しないことにより廃れていくということが「ユーザーに選択権がある」ということでした。開発者との契約で排除というのは、長く業界にいるものにとってはかなり強硬手段に写ります。



特許、著作権と言ったクリエイターを守る権利と、独占禁止法というものは相反するものであり、どちらが正義というたぐいのものではありません。利益を出すことを至上命題としている企業が、ある程度の影響力をもった後にその影響力を駆使して利益を求めることは自然な行動です。
しかし、政府という立場では異なります。アメリカ政府が考えることは、どのようにこの二つのバランスを取ることがもっともアメリカ経済に好影響を与えるかということです。今回アメリカ政府は明確にユーザ側の権利を主張しました。Appleの手法に明確な異議を唱えた訳でもないし、罰則を示したわけでもありません。それでも、今後Appleがビジネスモデルの対立によりアプリを拒絶した場合「ユーザの権利を狭める会社」というネガティブキャンペーンは大きな正当性を持つことになりました。
googlefacebookのようなプラットフォームの覇権を目指す会社も、意思決定に今回のことを考慮するのではないかと思います。

シリコンバレーで数人でスマートフォン向けに変わったソフトを開発しているようなベンチャは大いにこの発表を喜んだのではないでしょうか? このような会社が多数乱立してその中から一つでも次世代の覇者となるような会社が出てくる、それが結局新しい投資を促し、優秀な移民を集め、国の経済を発展させる原動力になるということをアメリカ政府は良く分かっているということだと思います。



P.S.1 一方で日本は、googleとヤフージャパンの提携に対して公正取引委員会が問題なしと説明しました。日本語の検索ワードの情報は一社だけが独占できることになります。その情報を利用したアプリの開発はgoogle以外には不可能でしょう。これが、マクロな日本経済にとって良いことだとはとても思えません。

P.S.2 単純なクリエイター同士の、特許・著作権VS独占禁止法 の問題ではありません。プラットフォームのクリエイターVSそのプラットフォーム上でのアプリのクリエイターの権利の衝突を、政府はユーザの権利を主張することで立場が弱いアプリのクリエイター側の権利を守ったのではないかと感じたということです。